BOOK『運転者  未来を変える過去からの使者』 喜多川泰著 Discover21出版

運転者 お勧め本
スポンサーリンク

始めに表題を見てライトノベル的な平易でお気楽ものの小説かなという印象を持っていたが、それはいい意味で大きく裏切られた。

話しは、過去からきた運転者(タクシー)が絶望に打ちひしがれている主人公に「お代は既にいただいています」というせりふのもとタクシーに乗せ、運を切り開ける場所へと連れていく。行った先で直ぐに運が開ける訳ではないが、そこを起点として新しい出合いや人生の方向転換となる何かに出合う。その運を自分に呼びこませることができるかどうかは本人次第で、いつも上機嫌でいないと運の転機を感じることはできない、不機嫌な人の元には運は来ないという。

未来を見通せる運転者に最初は不信感を持っていた主人公だが、いくつもの不思議な経験を通していつのまにか素直に運転者の言葉を受け入れ始めた。運命の歯車が好転し始めたところで、運転者からタクシー代が無料なのは祖父から父へ、父から自分へと受け継がれてきたたタクシー代が残っているからということを聞く。そして自分が使ってしまったタクシー代も、残った分は今度は代々親がそうしてくれたように自分で使い果たすのではなく、自分の子供に幸せになってもらうために使ってほしいと言い残す主人公。

この本がいいたいことは次の1節にあるのではと思うと同時に、私が共感した部分でもある。

「人間の一生が、自分だけの物語の完結だと思って生きるのであれば、生まれたときに与えられた条件を使って、できるだけ自分の欲望を満たした方がいい人生ということになっ てしまうかもしれませんが、実際には人間の一生は、延々と続く命の物語のほんの一部でしかありません。」

「それぞれの時代に生きた人が、延々と続く命の物語の一部を精一杯、自分の役割を果たすように生きてくれたから、次の世代は、前の世代よりも<いい時代>に生まれ育つことができるようになる。そして今あなたが、その命の物語というバトンを受け取って生き ているんですよ

「あなたがその物語に登場したときよりも、少しでもたくさんの恩恵を残してこの物語を 去る。つまり、あなたが生きたことで、少しプラスになる。」

この本では、誰かのために自分の時間を使うことにより運がたまり、溜まった運が後世の人々の役に立つという考えに立っている。

最近よく話題になるSDGs(持続可能な開発目標)とも重なる部分でもある。

著者は企業や社会、そして個人も自己の利益を追及するのは全然構わないという。ただ、自己の利益を追求する以上に後世にいい意味での命のバトンを残せるような貢献(運の蓄財)をしてもらいたいという。

この考えに従えば、今を生きている我々が運をためず自己のために使う一方だったら後世には悲惨な光景しか残っていないことになる。

ゴリゴリに正論を述べるのではなく、家族という身近なテーマを使い過去からの使者が未来へ導くというライトノベル的設定ではあるが、読み終えた後に素直に自分自身を振り返れるきっかけを与えてくれる小説だと思う。

若い人だけでなく、今まで自分自身のことで精一杯だった大人たちにも一読する価値はあると思う。

これが「喜多川ワールド」という世界観なのかもしれない。